映画『きみの色』を見てから長崎へ行くなら、モデル地を何か所回るかだけでなく、現地の風景・食・文化をどのように見るかを決めておくと、旅を組み立てやすくなります。
『きみの色』の主なモデル地は、長崎市、佐世保市、五島市、新上五島町の4市町に広がっています。坂と路面電車のある都市、軍港と音楽文化が重なる港町、教会と島の暮らしが残る五島、船が生活をつなぐ新上五島町。同じ長崎県でも、地域ごとに映画から受け取る「色」の見え方は変わります。
この記事では、結末に触れるネタバレを避けながら、4地域のモデル地を風景・歴史・食・移動の4方向から整理します。4地域を一度に制覇するための一覧ではなく、旅行の目的に合わせて訪問地域を選ぶためのガイドです。
本記事は公式観光情報などをもとに整理したもので、筆者の現地訪問記ではありません。黒島天主堂と旧五輪教会堂は、個人・団体を問わずインフォメーションセンターへの事前連絡が必要です。教会行事などで見学できない場合もあるため、教会見学事前連絡と最新のお知らせを確認してください。住宅地・生活道路では私有地に入らず、航路・営業時間・施設条件も出発直前に再確認しましょう。
この記事の要点
- モデル地は長崎市・佐世保市・五島市・新上五島町の4市町
- 長崎市は坂・路面電車・商店街など、日常の風景を見る地域
- 佐世保市は軍港の歴史、音楽、アメリカ文化、佐世保バーガーを重ねて楽しめる地域
- 五島市・新上五島町は、教会や港を「映える場所」ではなく、祈りと暮らしの場として見ることが大切
- 4地域を1日で回らず、都市部と島旅を分けて考えるのが現実的
目次
- 1-1. 映画が描く「色」と長崎の風景の重なり
- 1-2. 今回巡る4地域(長崎市・佐世保市・五島市・新上五島町)の位置関係
- 2-1. ドンドン坂・小曽根乾堂通り・赤迫停留所に見る"日常"の風景
- 2-2. ちゃんぽん・カステラで味わう異国情緒
- 3-1. 旧海軍佐世保鎮守府凱旋記念館と黒島天主堂
- 3-2. 佐世保バーガー・レモンステーキで感じるご当地グルメ
- 4-1. 旧五輪教会堂、バンド練習シーンの"静けさ"の舞台
- 4-2. 五島牛・かんころ餅にみる島の恵み
- 5-1. 有川港、フェリーが結ぶ島と島
- 5-2. 五島うどんと捕鯨の歴史が語る文化
- 6-1. 拠点・交通手段(本土2市+離島2地域)を踏まえた周遊ルート案
- 6-2. 映画の場面を想像しやすい時間帯と、モデル地を訪ねるときの見方
- 7-1. まとめ:映画のあとに見える長崎の"色"
1-1. 映画が描く「色」と長崎の風景の重なり
2024年8月30日に公開されたアニメーション映画『きみの色』は、『聲の形』『リズと青い鳥』の山田尚子が監督を務め、脚本を吉田玲子、アニメーション制作をサイエンスSARUが手がけたオリジナル長編作品だ。
物語の主人公は、海に面した街にあるミッション系の女子高校に通う3年生・日暮トツ子。トツ子には、人と向き合ったときにその人固有の「色」が見えるという感覚があり、それゆえに周囲から少し浮いた存在になっている。トツ子は「きれいな色」を感じた同学年の作永きみに惹かれるが、きみはいつの間にか学校を辞めてしまっていた。「本屋で働いているところを見た」という噂を頼りに市内を探し回ったトツ子は、ある古書店できみと再会する。そこで出会った音楽好きの少年・ルイとともに3人はバンドを組み、それぞれ誰にも言えない悩みを抱えながら、音楽を通じて心を通わせていく。
作中に明言される地名はないが、坂の多い港町、レンガや石造りの教会、フェリーが行き交う港といった風景は、長崎県が実際にモデル地であることが公式に案内されている。長崎県は、江戸時代の禁教期に信仰を守り続けた人々の歴史を伝える世界遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産を複数抱える土地でもある。本記事では、こうした教会と坂と海が同居する景観を、この映画の「祈りと音楽の物語」というテーマと重ねて読み解いていく(この結びつけ方はあくまで本記事による解釈であり、制作側が公式に述べている見解ではない)。
公式に案内されているモデル地は、長崎市・佐世保市・五島市・新上五島町の4市町。公開後の2024年9月1日から10月31日には、モデル地8か所を巡るデジタルスタンプラリーも開催された(開催時期限定の企画のため、現在は実施されていない点に注意)。次節からは、この4地域それぞれの「風景・ロケ地」と「食・文化」を、公式に案内されている情報をもとに紹介していく。
なお本節以降の内容は、映画公式・自治体観光サイト等で公開されている情報をもとに構成しており、筆者自身が現地を訪問した体験に基づくものではない。営業時間・料金・予約条件・アクセス方法は変更される可能性があるため、実際に訪問・予約する前には、必ず各施設・自治体の公式情報を確認してほしい。
参考情報
- 長崎がアニメ映画のモデル地に!映画『きみの色』を舞台を1日で巡ってきた★【長崎市編】 - ながさき旅ネット
- 「きみの色」モデル地・イベント情報 - ながさき旅ネット
- きみの色:作品情報・キャスト・あらすじ・動画 - 映画.com
- きみの色:キャスト・あらすじ・作品情報 - シネマトゥデイ
1-2. 今回巡る4地域(長崎市・佐世保市・五島市・新上五島町)の位置関係
4つのモデル地は、地理的な性格が大きく異なる。旅程を考えるうえでの前提として、まず位置関係を整理しておきたい。
- 長崎市:長崎県の県庁所在地で、本土側に位置する港町。坂の街として知られ、江戸時代の出島以来、異国文化の窓口として発展してきた。
- 佐世保市:長崎市から北へ、本土側にあるもう一つの港町。旧海軍の鎮守府(軍港の拠点)が置かれた歴史を持ち、九十九島に代表される多島海の景観でも知られる。
- 五島市:本土から西へ海を隔てた五島列島に属し、列島最大の島「福江島」を中心とする市。教会群が点在する「祈りの島」としての性格が強い。
- 新上五島町:五島列島のうち、福江島の北に隣接する「中通島」を中心とする町。有川港はかつて捕鯨基地として栄えた歴史を持つ。
つまり長崎市・佐世保市は本土側の2市、五島市・新上五島町は五島列島にある離島側の2地域という構図になる。大まかな位置関係を整理すると、次のようになる(実際の距離・方角を正確に表したものではなく、移動の考え方を把握するための簡略表)。
| 地域 | 位置 | 主な移動手段 |
|---|---|---|
| 長崎市・佐世保市 | 本土側 | JR・バス・車 |
| 五島市 | 福江島(五島列島) | 船・飛行機 |
| 新上五島町 | 中通島(五島列島) | 船 |
本土2市の間は陸路(JR・バス・車)で移動できるが、本土から五島市(福江島)へ、また五島市から新上五島町(中通島)へは、いずれも飛行機または船(フェリー・高速船)を使う海路・空路移動が基本になる。このため、4地域すべてを回るには相応の移動日数が必要になる。「本土側の2市」と「離島側の2地域」に分かれるという構図を押さえておくと、6章「4地域を一度に巡るなら」のモデルコースの考え方が理解しやすくなる。具体的な移動手段・所要時間の目安は6章で改めて整理する。
参考情報
2-1. ドンドン坂・小曽根乾堂通り・赤迫停留所に見る"日常"の風景
長崎市で公式に案内されているモデル地は3か所。いずれも観光名所というより、劇中の登場人物たちの"日常の動線"として描かれたスポットだ。
ドンドン坂は、南山手町にある石畳の坂道で、劇中ではトツ子の通学路として登場する。「雨の日に排水溝を水が勢いよく流れる音」が名前の由来とされ、長崎市の「坂道景観13選」にも選ばれている。坂の途中には古い洋館が並び、頂上付近からは稲佐山や長崎港、造船所のジャイアント・カンチレバークレーンまで見渡せる。グラバー園の出口から片道約500m・坂の長さ約150mで、入場料はかからない。
小曽根乾堂通りは、グラバー園のすぐ近くにある通りで、劇中ではトツ子ときみが奉仕活動を行うシーンの舞台になったとされる。南山手・東山手一帯の洋館・教会が点在するエリアの一角にあり、ドンドン坂とあわせて歩いて回りやすい立地にある。
赤迫停留所は、長崎電気軌道(路面電車)の停留所で、劇中ではきみのアルバイト先の最寄り電停として登場する。市中心部から路面電車で移動できる住宅街寄りのエリアにあり、観光地化されたスポットではない。
回り方の目安:ドンドン坂と小曽根乾堂通りはどちらも南山手エリアにあり、グラバー園・大浦天主堂といった定番の観光スポットと合わせてまとめて歩けるのが利点だ。長崎観光の導入としてこのエリアを回ったあと、路面電車に乗り換えて赤迫停留所へ向かう、という順序で組むと移動にムダが出にくい。
赤迫停留所を訪れる際の注意:ここは観光地ではなく、地元の人が日常的に利用する路面電車の停留所であり、周辺は住宅街になる。長時間の滞在や、通行・乗降の妨げになるような撮影は避け、他の利用者や近隣住民の迷惑にならないよう特に配慮したい。ドンドン坂・小曽根乾堂通りについても、私有地への立ち入りや大声での会話は控え、実際に人が暮らす生活道路であることを念頭に歩くことが求められる。
参考情報
2-2. ちゃんぽん・カステラで味わう異国情緒
南山手エリアでドンドン坂・小曽根乾堂通りを歩いたあとは、そのまま市街地へ下りて、長崎市を象徴する味で異国情緒を味わうという流れが組みやすい。
ちゃんぽんの発祥は、1899年(明治32年)創業の中華料理店「四海樓」とされる。創業者・陳平順は中国福建省から長崎に渡った人物で、当時長崎で学んでいた中国人留学生や華僑のために、安価でボリュームがあり栄養価も高い麺料理をと考案したのが始まりと伝えられている。豚骨や鶏ガラのスープに、豚肉・魚介・野菜など具材をたっぷり入れて一緒に炒め煮にするのが特徴で、長崎では「皿うどん」の発祥の店としても知られる。四海樓は現在も長崎市松が枝町で営業しており、館内にはちゃんぽんの歴史を紹介する「ちゃんぽんミュージアム」も併設されている。
長崎の麺料理には、この2つに加えて「トルコライス」という選択肢もある。ちゃんぽんはスープ入りの麺、皿うどんはパリパリの細麺またはちゃんぽん風の太麺にとろみあんをかけた麺で、どちらも麺料理であるのに対し、トルコライスはピラフ・ナポリタン・とんかつを1皿に盛り合わせたご飯もの。麺気分かご飯もの気分かで選び分けるとよい。
カステラは、1571年(元亀2年)にポルトガル人が長崎に上陸した際に伝わったとされる南蛮菓子がルーツ。当時スペインの「カスティーリャ王国」のパンとして紹介されたことが名前の由来とされる。長崎には江戸時代創業の老舗が現在も残り、1624年(寛永元年)創業の「福砂屋」、1681年(天和元年)創業の「松翁軒」などが知られている。カステラは日持ちがしやすく、まとめて購入して自宅で楽しめることから、食べ歩きよりも旅の土産として持ち帰る選び方が向いている。
いずれも長崎市内に複数の店舗・売店があり、食べ比べもしやすい。ただし価格帯・営業時間・混雑状況は店舗や時期によって変わるため、訪問前には各店の公式サイトやSNSで最新情報を確認しておくと安心だ。
参考情報
3-1. 旧海軍佐世保鎮守府凱旋記念館と黒島天主堂
佐世保市で公式に案内されているモデル地は2か所。どちらも歴史的建造物で、見学には条件がある点に注意したい。
旧海軍佐世保鎮守府凱旋記念館(佐世保市民文化ホール)は、劇中で3人がバンドとして演奏するシーンのモデルになったとされる建物。第一次世界大戦の凱旋記念として1923年(大正12年)に建設され、戦後は米軍に接収されたのち1977年に返還、1982年からは市民の演劇・音楽活動の拠点として使われている。1997年に国の登録有形文化財、2016年には日本遺産の構成文化財に認定された。館内展示は無料で見学できるが、ホールが実際に利用されている時間帯は見学できないため、訪問前に佐世保市民文化ホール(電話:0956-25-8192)へ確認しておくと確実だ。JR佐世保駅から車で約5分、徒歩では約30分の距離にある。
黒島天主堂は、トツ子が通う学校の聖堂のモデルとされ、劇中でトツ子がシスターに悩みを打ち明けるシーンに登場する。1902年に完成した煉瓦造りの教会で、世界遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産の一つ。佐世保港ではなく相浦港からフェリーで約50分かけて渡る黒島にある。信仰の場である構成資産の性質上、見学には事前連絡が必須で、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産インフォメーションセンター」(電話:095-823-7650、受付9:30〜17:30)への確認が必要になる。フェリーは1日3便(繁忙期は4便)で運航されており、日帰りでの訪問も可能だが、船の時刻に合わせた計画が欠かせない。
いずれも、演奏シーンと祈りのシーンという劇中の対照的な2つの場面が、実際には同じ佐世保市内の"本土側の記念館"と"離島の教会"という異なる性格の場所に対応している点が興味深い。訪問の際は、記念館は市街地観光と組み合わせやすい一方、黒島天主堂は船便・事前連絡を含めた半日以上の計画が必要になることを踏まえてスケジュールを組みたい。
参考情報
3-2. 佐世保バーガー・レモンステーキで感じるご当地グルメ
佐世保は「ハンバーガー伝来の地」を自称するご当地グルメの街でもある。
佐世保バーガーは、戦後まもなく米海軍基地が置かれた佐世保で、基地から直接レシピが伝えられたのが始まりとされる、手作りハンバーガーの総称だ。1951年(昭和26年)創業の「ヒカリ」は佐世保バーガー発祥の店として知られる老舗の一つで、地元でも長く親しまれている。1970年創業の「ビッグマン」もアーケード街にある老舗の一つで、店内でじっくり作られる手作りバーガーを味わえる(どの店が「元祖」かは複数の店が名乗っており諸説あるため、ここでは「発祥の店として知られる老舗」という位置づけで紹介する)。チェーン店のハンバーガーとは異なり、注文を受けてから一つずつ焼き上げるスタイルの店が多く、提供までに時間がかかることや、人気商品が売り切れる場合があることは事前に知っておくとよい。
レモンステーキは、昭和30年代の佐世保で、欧米の食文化に触発されて生まれたとされるご当地メニュー。高温に熱した鉄板の上で薄切りの牛肉を焼き、特製のレモンソースをかけて食べるのが基本のスタイルで、すき焼き文化を洋食にアレンジしたことが発祥の一因とされている。農林水産省の「うちの郷土料理」にも長崎県の郷土料理として紹介されており、佐世保市内の複数の洋食店・ステーキ店でメニューとして提供されている。
いずれも佐世保駅周辺・アーケード街に店舗が集中しているため、旧海軍佐世保鎮守府凱旋記念館の見学と同日に組み合わせて立ち寄りやすい。記念館は見学時間が限られるため、先に電話で見学可否を確認したうえで、待ち時間の出やすい佐世保バーガーの店へ先に並んでおき、記念館見学のあとにレモンステーキで一息つく、といった順序で回ると効率的だ。個々の店舗の営業時間・定休日・価格帯は変わることがあるため、訪問前には各店の公式情報やSNSで最新の営業状況を確認しておきたい。
参考情報
4-1. 旧五輪教会堂、バンド練習シーンの"静けさ"の舞台
五島市で公式に案内されているモデル地は、旧五輪教会堂の1か所。劇中では、トツ子・きみ・ルイの3人がバンド練習を行う場所のモデルになったとされる。
旧五輪教会堂は、五島列島・久賀島にある木造教会で、世界遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産の一つ。久賀島は、禁教期に信仰を守り続けた人々の歴史を伝える集落が残る島で、教会堂自体も静かな入り江の集落に建っている。劇中で描かれる"人目を気にせず音を鳴らせる静けさ"は、あくまで作品が生み出した演出であり、実際の教会堂は今も信仰の場として使われている。訪問者が多い日や祭事の時期には静けさの印象が異なる可能性もあるため、劇中の雰囲気と実際の現地の様子は分けて捉えておきたい。
見学には事前連絡が必須で、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産インフォメーションセンター」(電話:095-823-7650、受付9:30〜17:30)への確認が必要になる。内部見学が可能な時間は9時から17時、教会守が対応するのは9時から16時の間で、月曜日と隔週火曜日は見学できない。
アクセスは複数ルートがあり、五島市の中心部・福江港から車で田ノ浦港まで行き、久賀島の田ノ浦港から車でさらに約40分かかるルート、または福江港から奥浦港まで車で移動し、そこから海上タクシーで久賀島へ渡るルートなどが案内されている。教会堂そのものの手前800mまでしか車で入れず、久賀島の中でもいまだ車で直接乗り入れられない集落であるため、個人での訪問よりも「五島列島キリシタン物語」などの現地ガイドツアーを利用する方が確実に辿り着けるとされている。訪問の際は、事前連絡・ツアーの予約状況・当日の海況によって計画が変わりうることを念頭に、余裕を持ったスケジュールを組みたい。
参考情報
4-2. 五島牛・かんころ餅にみる島の恵み
教会と静けさの島である一方、五島市は豊かな食の島でもある。
五島牛は、五島列島で育てられるブランド和牛で、飼育頭数が少なく市場にあまり出回らないことから、地元でも希少な存在とされている。ふるさと納税の返礼品としても人気が高く、五島の牧草地や温暖な気候を生かした畜産が特徴だ。個体数が限られるため、確実に味わいたい場合は、事前に取扱い店舗や提供の有無を確認しておくことをすすめる。
かんころ餅は、五島地方の方言で「かんころ」と呼ばれる、薄切りにして天日干ししたサツマイモを、蒸したもち米と練り合わせて作る郷土菓子。もともとは島の冬場の保存食として作られてきたもので、江戸時代に大村藩によるキリシタン迫害を逃れて長崎本土の外海地方などから五島列島に移り住んだ人々によって伝えられたとされる。ほんのりとしたさつまいもの甘さと、もちもちとした食感が特徴で、切り分けてそのまま食べるほか、軽く焼いて香ばしさを楽しむ食べ方も親しまれている。現在は五島市内の和菓子店や土産物店、ふるさと納税の返礼品などを通じて手に入れることができる。
もう一つ、福江港ターミナル周辺で押さえておきたいのが鬼鯖鮨(おにさばずし)だ。五島の西沖でとれた真鯖を、一般的な鯖寿司よりも浅く〆て仕立てるのが特徴で、名前は五島市街地の南にそびえる火山「鬼岳」に由来するとされる。かんころ餅が甘い保存食であるのに対し、鬼鯖鮨は生に近い鯖の味わいを楽しむ一品で、島の"甘み"と"魚の恵み"の両方を味わい比べられる。
福江港ターミナル自体にも、五島うどんを使った立ち食いスタイルの店(あごだしを効かせた肉うどんなどが人気)や、五島うどん・かんころ餅・椿製品といった土産物を扱う売店が集まっている。旧五輪教会堂は久賀島にあり、現地には飲食店がほとんどないため、船に乗る前に福江の市街地・港ターミナルで食事や土産を確保しておくのが現実的な段取りになる。
なお、5章で紹介する新上五島町にも「五島うどん」と呼ばれる麺があるが、これは同じ五島列島の中でも旧上五島町・旧有川町で作られてきた系統(赤い帯封の有川うどんなど)で、福江島側で提供される五島うどん(肉うどんなど)とは産地・提供スタイルが異なる。同じ「五島うどん」でも、どの島・エリアで食べたかによって表情が変わる点も、島めぐりならではの楽しみ方といえる。
参考情報
- 長崎かんころ餅 - 長崎県公式サイト
- 五島名物「かんころ餅」その作り方から、焼きたてが食べられるお店、通販情報までをご紹介! - ながさき旅ネット
- 鬼鯖について - 【鬼鯖鮨公式サイト】三井楽水産
- 【五島市】福江島で"新鮮な魚"と"五島うどん"を食べつくす! - たびこふれ
5-1. 有川港、フェリーが結ぶ島と島
新上五島町で公式に案内されているモデル地は、有川港の1か所。劇中では、トツ子ときみが出航するフェリーを見送るシーンのモデルになったとされる。
有川港は、新上五島町の中心的な玄関口で、中通島の東側に位置する。港のターミナルは「有川港多目的ターミナル」と呼ばれ、高速船・フェリーの発着に加え、資料館や多目的ホールも併設されている。この多目的ターミナル内には、2004年12月に開館した「鯨賓館ミュージアム」があり、新上五島町の捕鯨の歴史を紹介する展示を見学できる(開館時間9:00〜17:00、年末年始12/29〜1/3休館)。
有川港からは、長崎港・佐世保港をはじめ、小値賀港、宇久港など周辺の島々への高速船・フェリー航路が発着している。長崎港から有川港へは高速船で約1時間40分、佐世保港からは高速船で約1時間30分・フェリーで約2時間40分が目安とされる。
なお、新上五島町の玄関口は有川港だけではない。五島市側の福江港から高速船(ジェットフォイル)で約30分の距離にあるのは、島の南側にある奈良尾港で、モデル地の有川港とは別の港になる。奈良尾港と有川港は同じ中通島(新上五島町)にあるが、路線バスで縦断すると2時間近くかかる位置関係で、この間には無料シャトルバスが運航されている場合がある。福江港から新上五島町へ渡ったからといって、そのまま有川港(鯨賓館ミュージアム)に到着するわけではない点に注意したい。
| 港 | 主な役割 |
|---|---|
| 奈良尾港 | 福江島(五島市)から新上五島町へ入る際の玄関口の一つ |
| 有川港 | 映画のモデル地・鯨賓館ミュージアム・五島うどん店へのアクセス拠点 |
劇中で描かれる「見送りの港」という情景は、この有川港が実際に多くの人・物資が行き交う海の玄関口であることと重なる。訪問の際は、便数が限られる離島航路であることを踏まえ、事前に最新の時刻表・運航状況を運航会社(九州商船など)の公式情報で確認しておきたい。
参考情報
5-2. 五島うどんと捕鯨の歴史が語る文化
有川港の周辺には、新上五島町ならではの文化が2つ根づいている。
五島うどんは、遣唐使の時代に大陸から伝わったとされる歴史の長い麺料理で、「日本三大うどん」の一つと紹介されることがある(この分類には諸説あり、地域や紹介者によって挙げる銘柄が異なる点には注意したい)。もともとは旧上五島町で作られてきた「船崎うどん」と、旧有川町で作られてきた「有川うどん」の総称で、有川うどんは赤色の帯封が目印とされる。手延べ製法で丹念に作られるため生産量が限られ、かつては「幻のうどん」とも呼ばれた。細く締まったコシの強い麺が特徴で、あごだし(トビウオの出汁)をきかせたつゆで食べるのが定番のスタイルだ。
捕鯨の歴史も、有川の地域文化を語るうえで欠かせない。有川は江戸時代から昭和にかけて捕鯨基地として栄えた町で、その歴史は先述の鯨賓館ミュージアムで紹介されている。「有川捕鯨関連文化遺産」として文化的価値が認められており、五島うどんが伝承されてきた土壌には、こうした海とともに生きてきた島の暮らしがある。町内では現在も「くじらどん祭り」といった捕鯨の歴史にちなんだイベントが開催されている。
有川港での見送りシーンと、赤い帯封の五島うどん、そして鯨賓館ミュージアムでの歴史学習は、いずれも港を中心に営まれてきた島の暮らしという一本の線でつながっている。組み立て方はシンプルで、有川港に到着したら、港の見学・鯨賓館ミュージアム・五島うどんの食事を1セットで回ることを意識すると、フェリーの待ち時間を無駄にせず、限られた滞在時間を有効に使いやすい。
参考情報
6-1. 拠点・交通手段(本土2市+離島2地域)を踏まえた周遊ルート案
1-2で整理した通り、4地域は「本土側の長崎市・佐世保市」と「五島列島側の五島市・新上五島町」に分かれ、本土から離島へ、離島から離島へは船または飛行機での移動が基本になる。ここでは、4地域すべてを回る場合の考え方を整理する。
本土2市の移動:長崎駅から佐世保駅へは、大村線経由の快速「シーサイドライナー」などのJR在来線で移動する(西九州新幹線の開業以降、長崎〜佐世保間を直通する特急列車は運行されていない)。所要時間はおおむね2時間前後が目安とされるが、ダイヤ改正や列車ごとの停車駅によって変わるため、実際の乗車前にJR九州の公式時刻表で運行区間・所要時間を確認したい。市街地同士の移動なので、日中の移動であれば1日の中に組み込みやすい。
本土から五島市(福江)への移動:長崎空港から福江空港へは飛行機で約30分。船の場合は、長崎港から福江港まで高速船で約1時間25分〜1時間50分、フェリーで約3時間10分〜3時間55分が目安となる。空路は最速だが、空港での搭乗手続き・荷物受け取りの時間も見込んでおく必要がある。
五島市から新上五島町への移動:福江港から、新上五島町側の玄関口の一つである奈良尾港へは、高速船(ジェットフォイル)で約30分と近い。ただし、モデル地の有川港は奈良尾港とは別の場所(同じ中通島の反対側寄り)にあり、奈良尾港から有川港へは路線バスで2時間近くかかる(区間・時期により無料シャトルバスが運航される場合がある)。福江港から有川港へ直接向かう船便がない場合は、この乗り継ぎ時間も旅程に見込んでおく必要がある。
新上五島町から本土への帰路:有川港から長崎港へは高速船で約1時間40分、佐世保港へは高速船で約1時間30分・フェリーで約2時間40分。行きは長崎空港経由で五島市に入り、帰りは新上五島町から佐世保港・長崎港へ船で戻る、という一筆書きのルートを組みやすい。
これらを踏まえると、4地域すべてを回るための日数は、以下のように「最低ライン」と「余裕を持った推奨日数」を分けて考えたい。
- 最低ライン(3泊4日程度):移動を詰め込み、教会2か所(黒島天主堂・旧五輪教会堂)の予約・ツアーが希望通りに取れた場合の最短目安。天候や船の遅延に対する余白がほぼない、タイトな行程になる。
- 推奨日数(4泊5日以上):黒島天主堂・旧五輪教会堂は事前連絡が必要で、必要に応じて現地ツアーを手配し、便数の限られる船便に合わせた計画が求められるため、離島側の日程に1日分の予備日を確保できるのがこちらの目安。台風・悪天候による欠航で船が運休する可能性もあるため、離島区間は移動日の最終盤に組み込みすぎないことも計画上のポイントになる。
初めて4地域を回る場合や、教会の予約が確定していない段階で計画する場合は、推奨日数(4泊5日以上)を基準に組んでおくと、予定変更にも対応しやすい。
なお、上記の所要時間・便数は変動する可能性があるため、実際の旅程を組む際は、必ずJR九州・九州商船・各航空会社の公式サイトで最新のダイヤ・運航状況を確認してほしい。
参考情報
6-2. 映画の場面を想像しやすい時間帯と、モデル地を訪ねるときの見方
移動手段を押さえたところで、各モデル地をどのタイミングで訪れると、劇中の情景を想像しやすいかを考えてみたい。ここでの提案は、各スポットの立地や役割から導いた一般的な目安であり、映画の実際の撮影時刻や制作側の意図を保証するものではない点はあらかじめお断りしておく。
- ドンドン坂・小曽根乾堂通り(長崎市):劇中では通学路・日中の奉仕活動シーンとして描かれるため、午前〜午後の明るい時間帯に訪れると、坂の上から見える長崎港や街並みの見え方を想像しやすい。石畳が濡れると滑りやすくなるため、雨天時は特に足元に注意したい。
- 旧海軍佐世保鎮守府凱旋記念館(佐世保市):ホールとしての利用がない時間帯を狙う必要があるため、時間指定というより「事前に見学可否を電話確認してから訪れる」ことが最優先になる。
- 黒島天主堂・旧五輪教会堂(佐世保市・五島市):どちらも信仰の場で、インフォメーションセンターへの事前連絡が必要になる。現地ツアーは移動手段と案内をまとめたい場合の選択肢であり、事前連絡そのものとは別の手続きだ。訪問時間は船便の運航時刻に合わせて決まるため、時間帯を選ぶことよりも、事前連絡・予約を確実に済ませ、見学時は静粛にする、案内された見学ルールを守るといったマナーを優先したい。
- 有川港(新上五島町):劇中では"見送り"の場面のモデルとされることから、フェリー・高速船の出航時刻に合わせて港に立つと、劇中の情景を想像しやすい。出航前後は乗降客で港が慌ただしくなるため、写真を撮る場合は他の利用者の妨げにならない場所・タイミングを選びたい。
いずれのスポットも、信仰の場や住民の生活道路と隣り合っていることを踏まえ、静かに見学・撮影すること、私有地に立ち入らないこと、地元の人への配慮を忘れないことが共通のマナーになる。訪問前には、各施設・自治体が案内する最新の見学ルール(撮影可否、立ち入り禁止エリアなど)もあわせて確認しておきたい。
参考情報
7-1. まとめ:映画のあとに見える長崎の"色"
『きみの色』のモデル地を4地域たどってみると、それぞれの場所が持つ"色"の違いに気づかされる。長崎市のドンドン坂・小曽根乾堂通りに広がる石畳と洋館の色、佐世保の記念館に刻まれた大正建築の色、黒島天主堂・旧五輪教会堂の静かなレンガと木の色、そして有川港でフェリーを見送るときに広がる海の色。トツ子が人に見ていた「色」のように、同じ長崎県でも地域ごとにまったく異なる表情があることが、実際に地図とアクセス情報を追うだけでも見えてくる。
一方で、今回紹介した4地域は、観光地として整備された場所ばかりではない。ドンドン坂や小曽根乾堂通り、赤迫停留所は住民が暮らす生活道路であり、黒島天主堂・旧五輪教会堂は今も信仰が続く教会である。映画のファンとして訪れる場合も、そこが誰かの日常や祈りの場であることを忘れず、静かに、丁寧に巡ることが、この土地への向き合い方として大切になる。
また、本記事で紹介した施設の営業時間・見学条件・料金、船便のダイヤや所要時間は、季節や運航会社の都合、天候(台風など)によって変わる可能性がある。実際に予約・訪問する前には、必ず各施設・自治体・交通事業者が公開している最新の公式情報を確認してほしい。特に黒島天主堂・旧五輪教会堂は事前連絡が必須であり、無予約での訪問はできない点に改めて注意したい。
最後に、どこまで巡るかで迷ったときの目安をまとめておく。
- 長崎市だけを歩くなら:日帰り〜1日で、ドンドン坂・小曽根乾堂通り・赤迫停留所とちゃんぽん・カステラを組み合わせられる。
- 長崎市+佐世保市まで足を延ばすなら:1泊2日が目安。旧海軍佐世保鎮守府凱旋記念館とご当地グルメだけなら市街地観光の範囲で収まるが、黒島天主堂まで含める場合は相浦港からのフェリーの時間を1日分確保したい。
- 五島市(旧五輪教会堂)まで含めるなら:船便と教会見学の事前連絡を先に確定し、個人移動が難しい場合は現地ツアーも検討するため、3泊以上を見込んでおきたい。
- 4地域すべてを回るなら:6章で整理した通り、船便のダイヤと教会の見学予約を先に確定させたうえで、最低でも3泊4日、余裕を持たせるなら4泊5日以上を基準に計画するのが現実的だ。
長崎市・佐世保市・五島市・新上五島町という4つの異なる表情を、映画という一本の補助線を引いてから旅すると、これまでとは違う解像度でこの土地を歩けるはずだ。映画やアニメの舞台を、風景だけでなく郷土料理や地域の暮らしと一緒に巡る旅に興味がある方は、熊本県の人吉・球磨を舞台にした『夏目友人帳』の人吉・球磨を訪ねる前に|モデル地・球磨川・温泉・町歩きの見方もあわせて参考にしてほしい。鮎や球磨焼酎、温泉などを組み込んだ聖地巡礼の考え方を紹介している。旅行前に作品から地域の見方をつくる方法は、公開済みの沖縄旅行前に見たいアニメ3選|方言・食・風景を観察する予習法でも整理している。
最終確認日:2026年8月27日。モデル地、教会見学の事前連絡、各地域の公式観光案内を再確認しました。